炭水化物のすべて: 山本義徳 業績集1

山本義徳 著のKindle書籍。糖質(炭水化物)の分類・消化吸収機序・インスリン感受性・腸内環境・カーボアップ手法を科学的に体系化した実践栄養学書。ボディビル・フィジーク・スポーツパフォーマンス向上を主眼に置いた実用書。

主要ハイライト要約

糖質の分類(単糖類・二糖類・多糖類)

糖質は分子サイズで3段階に分類される。

単糖類(最小単位):

  • グルコース(ブドウ糖): 脳・赤血球の主要エネルギー源。血中に約0.1%。他の糖類は最終的にグルコースに変換される
  • フルクトース(果糖): 果物・ハチミツに多い。中性脂肪・尿酸を増やす作用があるため過剰摂取に注意
  • ガラクトース: 乳糖を分解すると生成。天然にはガラクトース単体では存在しない。過剰摂取は白内障の一因との説も
  • マンノース: こんにゃくマンナンなど食物繊維の成分

二糖類(単糖×2):

  • ショ糖(スクロース): 砂糖。ブドウ糖+果糖。砂糖摂取は果糖摂取と同義
  • 乳糖(ラクトース): ガラクトース+グルコース。母乳に約6.7%、牛乳に約4.5%。アジア人は分解酵素が少ない→乳糖不耐性
  • 麦芽糖(マルトース): グルコース×2。腸内発酵しやすく便通促進作用

多糖類(単糖多数):

  • デンプンが代表。酵素・酸で分解するとデキストリンになる

果糖(フルクトース)の問題点

砂糖は「果糖+ブドウ糖」であるため、砂糖摂取=果糖摂取。さらに問題なのが果糖ブドウ糖液糖で、砂糖より安価・甘みが強く清涼飲料水に広く使用される。ジュースの大量摂取は果糖過剰摂取につながりNG。果物単体より加工食品の果糖が主要な問題源。

グルコース輸送メカニズム(GLUT・SGLT)

グルコースの細胞取り込みには2種類のトランスポーターが存在する:

  • GLUT(Glucose Transporter): 濃度勾配に従う受動輸送
  • SGLT(Sodium-Glucose Co-Transporter): ナトリウム勾配を利用した能動輸送。腎臓での糖再吸収に SGLT2 が機能する。SGLT2阻害薬はこの再吸収を阻害し尿中に糖を排出させる糖尿病治療薬として認可済み

糖新生と筋肉分解

糖質が不足すると、アミノ酸・乳酸・グリセロールを材料にブドウ糖を合成する「糖新生」が起動する。糖新生が活発になるほど筋肉(アミノ酸の供給源)が分解される。筋肉量維持・増大を目指す場合、糖新生を最小化するための適切な糖質摂取が重要。

満腹メカニズム

複数の経路が満腹シグナルを制御する:

  • セロトニン: 単調な反復運動やトリプトファン摂取で増加→満腹感の偽装に利用可能
  • コレシストキニン(CCK): 小腸から分泌されるホルモン。本来は胆汁・膵液分泌を促すが、同時に満腹シグナルとして脳に届く
  • PYY3-36: 食事量が少なかったりノンカロリーのものだと分泌不足→ノンカロリードリンクの問題点
  • ヒスタミン: 満腹中枢を刺激。「咀嚼」でも増加する(1回30回が目安)

ダイエットに有効な難消化性素材

レジスタントスターチ(難消化性デンプン): 消化吸収を邪魔することでカロリー摂取を実質削減。

難消化性デキストリン:

  • リパーゼによる分解後のミセルからの脂肪酸・モノグリセロール放出を抑制→脂質吸収を遅延・便への脂質排泄を増加
  • カルシウム・マグネシウム・鉄・亜鉛などミネラルの吸収は逆に促進(動物実験)
  • 推奨: 食事の少し前に5g程度

トレーニング中の糖質(ワークアウトドリンク)

マルトデキストリンクラスター・デキストリンをトレーニング中に摂取することでパフォーマンスが大幅向上する:

  • マルトデキストリン: 糖質濃度6%(70kgトレーニーで1Lの水に40g)
  • クラスター・デキストリン: 10%程度でも胃もたれしにくい(70kgで70g)

インスリンと筋肉・GLUT4

インスリン分泌により GLUT4 が細胞膜表面に出てきてブドウ糖取り込みが促進される(トランスロケーション)。筋肉の物理的収縮・血行促進によってもGLUT4トランスロケーションが促進される。

重要: この効果は運動開始後すぐに始まり、運動終了後3時間ほど持続する。この間は筋肉のインスリン感受性が非常に高く、大量にインスリンが分泌されても脂肪細胞に働く割合が最小化される→「運動後3時間以内に糖質+アミノ酸を補給」が鉄則。

運動後栄養摂取プロトコル

  1. ワークアウト中: 糖質+アミノ酸(またはプロテイン)を溶かしたドリンクを飲み切る
  2. 運動終了直後: アミノ酸のみ(交感神経興奮中は消化能力が低下→消化不要のアミノ酸が適切)
  3. 数十分後(消化回復後): 糖質+プロテイン

GI値の実際

GI値の高い食品でも、油脂・食物繊維と一緒に食べると全体の消化が遅れ、インスリン分泌がゆるやかになる。食事全体としてのGI値は組み合わせで低下する。

断食と腸の問題

断食で腸のエネルギーが不足すると腸での水分吸収ができなくなり下痢が起きる。「デトックスされているわけではない」と著者は明言。

短鎖脂肪酸と腸内環境

腸内細菌が産生する酢酸などの短鎖脂肪酸は:

  • エネルギー状態の指標として機能
  • 脂肪酸受容体「GPR43」を介して体脂肪蓄積を抑制・肥満を防ぐ
  • 脂肪組織のインスリン感受性のみを下げる(体脂肪が増えにくくなる)

逆に:断食や腸内環境悪化で短鎖脂肪酸が産生されないと、むしろ太りやすくなる。

イヌリン(プレバイオティクス)

イヌリン(別名フラクトオリゴ糖)の特性:

  • 食物繊維として分類。砂糖・果糖とは異なり吸収量は僅少
  • ヒト大腸でビフィズス菌・乳酸菌などの善玉菌を増加
  • ビフィズス菌増加によりプロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸産生能が向上
  • プレバイオティクス(腸内細菌のエサとなる素材)
  • コレステロール・中性脂肪低下効果の報告あり
  • 注意: 最初は1日10g程度から(過剰摂取でガス・膨満感)

カーボアップ(グリコーゲンローディング)手法

競技前に筋グリコーゲンを最大化する「カーボアップ」には複数のプロトコルがある:

Sherman/Costill法(1983年):

  • 1週間プロトコル。テーパリング(運動強度70~75% VO2max維持・時間を90分→40分→20分と削減)
  • 前半3日: 摂取カロリーの50%を炭水化物(約体重1kg×3.97g)
  • 後半3~4日: 摂取カロリーの70%を炭水化物(約体重1kg×9.92g)
  • 例: 体重70kgの場合、前半278g/日→後半694g/日

西オーストラリア大学法(2002年):

  • わずか24時間で同等のグリコーゲン蓄積を達成
  1. VO2max130%で150秒間の自転車漕ぎ
  2. 続けて全力で30秒間漕ぐ
  3. 24時間で除脂肪体重1kgあたり12gの炭水化物を高GI食品で摂取

Sherman/Costill法の最適化ポイント:

  • 低糖質期間は青魚・サーロインなど脂肪をしっかり摂取
  • カーボアップ開始時(1~2日目)は高GI食品優先(ブドウ糖・マルトデキストリン・白米・餅・うどんなど)
  • 次の1~2日は中GI食品(パスタ・ソバ・全粒粉パン・サツマイモ等)
  • 100g(糖質)を7回に分けて小分け摂取
  • タンパク質・脂質は少なめ
  • 毎食後にクエン酸1~2g

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