累積淘汰(累積的選択)
進化生物学の概念。リチャード・ドーキンス が著書『盲目の時計職人』で詳述した。マシュー・サイド が『失敗の科学』で組織学習・イノベーションのメカニズムとして応用した。
定義
小さな適応(変異)が段階的に積み重なることで、単一ステップでは到達できないほど複雑・高度な結果をもたらすメカニズム。
- 各ステップは個別に見れば小さな改善にすぎない
- しかしそれが選択されて次の世代に引き継がれ続けることで、指数関数的に複雑さが増す
- ランダムな一発変異(偶発的改善)とは根本的に異なる
ドーキンスの「盲目の時計職人」論
時計のように複雑な構造は「設計者」なしに偶然には生まれない、という神学的議論(ウィリアム・ペイリーの時計職人論)に対し、ドーキンスは累積淘汰こそが複雑性を生む原動力だと反論した。
「盲目の時計職人」= 先を見通す設計者なしに累積淘汰が精密な構造を生み出す自然選択のプロセス
組織・イノベーションへの応用(マシュー・サイドの解釈)
| 生物進化 | 組織・製品開発 |
|---|---|
| 遺伝的変異 | 試行・失敗・実験 |
| 自然選択 | 市場・ユーザーの評価 |
| 累積淘汰 | 失敗から学び改善を積み重ねるサイクル |
- 失敗を「排除すべきエラー」でなく「選択の材料」と捉える
- クローズド・ループとオープン・ループ(失敗学) が機能して初めて累積淘汰が組織内で起きる
- 数学者的なトップダウン(設計)と生物学者的なボトムアップ(実験・淘汰)の混合が実際の革新を生む
関連概念
- クローズド・ループとオープン・ループ(失敗学) — 累積淘汰の前提条件(オープン・ループの維持)
- 組織開発 — 累積淘汰サイクルを組織に埋め込む取り組み
- リチャード・ドーキンス — 概念の提唱者
出典
- マシュー・サイド-失敗の科学 location 1795, 1858