労災保険実務
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務上または通勤中の傷病・障害・死亡に対して給付を行う保険制度。保険料は全額事業主負担で、労働者の負担はない。1人でも労働者を雇用している事業所は強制適用。
業務災害と通勤災害の判断基準
業務災害
業務起因性(業務が原因であること)と業務遂行性(事業主の支配下にあること)の両方が必要。
| 状況 | 業務災害該当 | 備考 |
|---|---|---|
| 業務中に機械で負傷 | ○ | 典型的な業務災害 |
| 就業中に同僚に暴行された | ○(私的怨恨除く) | 業務に関連した暴力 |
| 昼休み中に社内で負傷 | △ | 施設管理瑕疵なら○ |
| 出張中の事故 | ○ | 出張全般が業務遂行に含まれる |
| 自宅でのテレワーク中 | ○(業務中であることが明確な場合) | 私的行為は× |
| 過労死(脳・心臓疾患) | ○(所定の認定基準を満たす場合) | 直近1か月100時間超 or 2〜6か月平均80時間超等 |
| ハラスメントによるうつ病 | ○(心理的負荷評価表で「強」に該当する場合) | 精神障害の労災認定基準に基づく |
通勤災害
合理的な経路・方法による通勤中の傷病。「逸脱・中断」があると通勤経路から外れた部分は保護されない(日用品購入等の日常生活上必要な行為は例外)。
| 通勤の形態 | 該当例 |
|---|---|
| 自宅〜就業場所 | 通常の出退勤 |
| 就業場所〜別の就業場所 | 掛け持ち勤務の移動 |
| 単身赴任先〜帰省先 | 週末帰省 |
主要手続き・様式
| 給付の種類 | 様式番号 | 提出先 |
|---|---|---|
| 療養補償給付(指定医療機関受診) | 様式第5号(業務)/ 第16号の3(通勤) | 指定医療機関経由で労基署 |
| 療養補償給付(自費受診後の請求) | 様式第7号(業務)/ 第16号の5(通勤) | 労働基準監督署 |
| 休業補償給付 | 様式第8号(業務)/ 第16号の6(通勤) | 労働基準監督署 |
| 障害補償給付 | 様式第10号(業務)/ 第16号の7(通勤) | 労働基準監督署 |
| 遺族補償給付 | 様式第12号(業務)/ 第16号の9(通勤) | 労働基準監督署 |
| 傷病補償年金 | 自動移行(療養開始1年6か月経過後、労基署が判断) | 手続き不要 |
| 死亡災害報告 | 様式第23号 | 発生後即時(重大災害・死亡) |
| 労働者死傷病報告 | 様式第23号 or 第24号 | 死亡・4日以上休業:遅滞なく / 1〜3日休業:四半期ごと(3/7/10/1月末) |
各給付の概要
療養補償給付
- 業務上の傷病に対する医療費の全額給付(自己負担なし)
- 指定病院:無料(様式5号を病院に提出)
- 非指定病院:自費立替後に請求(様式7号)
休業補償給付
- 支給額:給付基礎日額の60%(休業4日目〜)
- 特別支給金:給付基礎日額の20%(別途申請不要で自動付加)
- 合計:実質的に**給付基礎日額の80%**が補填される
- 待期期間(1〜3日):事業主が平均賃金の60%を直接補償(労基法76条)
障害補償給付
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 第1〜7級 | 障害補償年金(終身) |
| 第8〜14級 | 障害補償一時金 |
遺族補償給付
- 遺族補償年金:受給資格者(配偶者・子・父母等)に終身支給
- 遺族補償一時金:年金受給資格者がいない場合
傷病補償年金
- 療養開始後1年6か月経過後も治癒せず傷病等級1〜3級に該当する場合、休業補償給付から自動移行
- 移行後は事業主から「打切補償」(労基法81条)の権利が生じ、解雇制限が解除される
事業主・担当者がすべきこと
- 災害発生直後:被災者の救護・病院搬送
- 労働基準監督署への報告:死亡・重傷の場合は即時、軽傷は定期報告
- 様式の作成補助:被災者・遺族が申請する様式(会社証明欄)を記入
- 再発防止措置:安全配慮義務(民法415条・労契法5条)に基づく職場改善
第三者行為災害
交通事故等、第三者の行為によって生じた労災の場合、労災保険と第三者(加害者)の損害賠償が競合する。「第三者行為災害届」を労基署へ提出し、支給調整を受ける。
よくある実務ポイント
- 労災隠し(報告義務違反)は50万円以下の罰金(労働安全衛生法第100条)
- 健康保険は業務上傷病に使用できない。誤って健保を使った場合は切替手続きが必要
- 精神障害の労災申請件数は年々増加。ハラスメント対策が労災リスク低減に直結する
- 副業・兼業先での労災:給付基礎日額は全事業所の賃金合算で計算(2020年〜)